No50  刺繍を終えて

最近、ドレスの一部刺繍の依頼があった。

見頃にビーズが付いたレースを糸で留めつける。

どんなにミシンが発達しても、ビーズ刺繍は手作業になる。

 

細い糸と針。

針に糸を通す時、視力が落ちたなと老いを感じる。

それでも、細かい作業は面白い。

キラキラしていてカワイイ。

仕事としては本当に楽しい。

 

夢中で終わらせた後、伝票を見て我に返った。

単価は、1分12円。

時給720円では最低賃金に届いていない。

最低賃金は780円だから、1分13円でないと違法だな。

そんなことを考えてしまった。

 

この値段でも内職にしてはいい方だと聞いた。

「技術を磨けば、値段に見合った仕事が出来る」

「仕事があるだけでもマシだ」と言われた。

話をしながら、何かが心に引っかかった。

 

そもそも、技術料は時間で測れるものではない。

私の技術はそんなに安いのか?

うーん…。わからなくなってきた。

 

「絹を作る人間は、絹を着る人にはなれない」と言う言葉がある。

江戸時代、薄い絹の着物は超が付くほどの高級品だった。

縮緬や綸子は希少品。

材料から製品に至るまで、作るには人手も時間も手間もかかった。

高級品を着れる身分の人は限られていた。

作る人の身分は低かった事実が、言葉として残っている。

 

今の時代は、身分制度もないはずなのに。

どうにかして、その言葉を変えられないものか。

お金の価値観で考えていては解決はしない。

ただ、一人の職人として認めてもらいたい。


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